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散弾実包をスラッグにリロード
どういう意味でしょうかね.
クレー射撃用の完成装弾を分解して散弾を取り出し,そのショット
カップに一発弾を入れるということでしょうか.結論からすれば,きちんと火薬の許可を取って,最初からリロードしたほうがいいと思いますが,どうしてかということを説明しましょう.
まず法的な問題を考えます.実のところ,散弾実包の散弾(shot)を入れ替えることは法的に問題はないと思われます.しかし,もし火薬を取り出してしまったとすると,それは火薬の製造と見なされる恐れがあります.これはもちろん違法です.ですから,散弾を入れ替えたとしても,火薬については量の調整や種類の変更は当然できないことになります.
次にクリンプの問題です.撃つと綺麗にクリンプが解除されるので,工具で綺麗にあけられる気がするかも知れませんが,実はこれは結構難しいです.綺麗にクリンプが解けた状態になっていないと,今度クリンプするときにうまくかけることができません.ですから,リロードするなら射撃後の空薬莢を使う(あるいは入手は困難ですが新品)のがよいのです.クリンプは腔圧の制御に大きな働きがあり,きれいなクリンプがかけられなければ正常に火薬が燃焼しない可能性があります.クリンプにはロールクリンプとフォールドクリンプがありますが,通常の散弾はフォールドクリンプで,これを解除するのが困難なため,先を切ってしまうと,専用のクリンプスタータがないとフォールドクリンプは綺麗にかけられません.ですからロールクリンプに変えることになるでしょう.しかしワッズがそのままでは使えないのでレシピが変わるのです.まあ要するに単なる入れ替えで済ませられないいろいろな問題が起こるということです.
ここまでどうにかクリアしたとしても最大の問題が残っています.そもそもレシピが散弾とスラグではかなり違うということです.具体例を見てみましょうか.例えばスラグのレシピで以下のようなものがあります.
hull | WAA HS |
load | 525gr Lyman sabot / fold crimp |
wad | WAA12F114 |
primer | Win.209 |
powder | Universal |
charge | 27.0 gr |
velocity | 1,364 fps |
pressure | 10,800 psi |
プロジェクタイル(飛ばす部分,要するに散弾やスラグ弾頭のこと)の入れ替えだけで済ますために同じ重さの散弾を考えます.525gr = 1.2oz です.1-1/4oz が最も近くワッズの
カップサイズも適合するのでそのデータを見てみましょう.
hull | WAA HS |
load | 1-1/4 oz. field load / fold crimp |
wad | WAA12F114 |
primer | Win.209 |
powder | Universal |
charge | 22.5 gr |
velocity | 1,236 fps |
pressure | 11,200 psi |
似たような条件なのにもかかわらず,散弾よりもスラグのほうが薬量が必要なことがわかりますね.4.5gr の差はかなりなものです.まあこのケースだと散弾をスラグにしてもまともな弾速はでないだけで危険ではなさそうです.しかし,すべてのケースで安全かの保証はありません.というのも薬種やワッドによってもかなり薬量は違うのです.例えば上の散弾の場合,火薬を HS-6 でワッドを WAA12R にすると,30.0gr も必要です.
というわけで,結論としては散弾実包を分解して散弾をスラグに入れ替えることは推奨しないということです.素直に火薬の許可を取って,自分の条件にあった組み合わせを作るべきというのが,法的,技術的,安全面など総合的に判断した上での私の意見です.