週末猟師

休日に射撃や狩猟を楽しむ

気になった弾頭鋳造記事

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先日買った「狩猟生活 vol.10」にはハンドロードや弾頭鋳造の記事があったのは喜ぶべきことなのですが,気になった点もあります.

 

記事で弾頭鋳造に使用しているのは Lee Production Pot IV のようです.

 

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記事には「日本とアメリカでは電圧が異なるため,そのままだと溶かした鉛の温度が十分に上がらず」という記載がありました.これはサーモスタットの故障か,使用環境が不適切な所為か,はたまたそもそも思い込みの勘違いだと思います.確かにこの製品の定格電圧は 110V で,日本は 100V という違いがあります.ヒーターに通電すると発熱で温度が上昇しますが,被加熱物への放熱によってある温度で平衡状態となります.この平衡温度はヒータ電力(電圧ではない)と負荷(被加熱物)で変わり,これが鉛を溶かすのに不十分であればもちろん溶けないことになります.

 

ただ鉛の融点は330℃(実際に溶かす場合は当然これより高く設定する)で,実際に使用することを考えると平衡温度をそのギリギリに設計することはあり得ません.当然これよりかなり高くなるよう設計されており,実際にこの製品で設定できる最高温度は480℃(華氏900度)です.100V で使用したからとそのマージンに入らないとは思えません.

 

記事には「昇圧トランスで電圧を上げて使用している」とあります.要するに 100V を 110V に変換するステップアップ(昇圧)トランスを使っているわけです.この製品に使用されているヒーターは 500W ですから,これを 100V で使用すると計算上は 413W になります.2割ほど出力が下がるわけですね.この差は加熱プロファイルに出てきます.模式的には以下のようになります.

 

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赤が昇圧トランスを使用して,定格通りの 110V で加熱した場合の温度変化,青がトランス無しで 100V で使用した場合です.いずれの場合も設定された温度に達するとサーモスタットで加熱が止まって,温度が一定に保たれる仕組みです(実際はこの温度の前後でオンオフを繰り返し,目標温度近辺を維持するようになっている).使用中に固体の鉛を追加投入すれば,その分温度が下がり,通電して加熱が始まります.このとき元の温度に戻るまでの時間はもちろん昇圧トランスを使用した方が早いですが,その時間差はやはり2割程度であろうと推測されます.

 

結局 110V 仕様のメルターを 100V で使っても,溶けるまでの時間が長くなるだけで実際の使用には差し支えない,というのが電気屋である私の見解です.というか,そもそもうちではそうやって問題なく使ってますからね.

 

あ,そうそう 100V で使ったら「鉛の温度が十分に上がらず,湯流れがいまいち良くなかった」とありますが,これも電圧の所為ではなく,モールドの温度管理が出来てなかっただけだと思います.モールドの温度が低すぎたのです.ここは弾頭鋳造の最重要ポイントですね.モールドがアルミか鉄かによっても,この辺の所作に違いが出てくるのですけど,そういうことを体得していくのも弾頭鋳造の楽しみかなと思います.