週末猟師

休日に射撃や狩猟を楽しむ

非鉛弾鋳造を考える

鉛という金属は弾頭材料として非常にすぐれた特性(比重大,融点低,展性大,低価格,安定性大等)を持っているわけですが,反面有害性については過大に言われている嫌いがあると個人的には考えています.単体の鉛は表面に酸化物層を形成して,自然界では安定な状態で存在しえるからです.昔は水道管にも使われていたくらいですしね.もちろん摂食するほどの量になれば有害です.ところが近年美女が嫁した某議員が入れ知恵で,狩猟での鉛弾全面禁止なんて耳心地だけ良い言葉を言い出してしまいますと,困る人は相当多いんじゃないでしょうかね?(逆に助かる人はほぼ皆無では?それが分かっていてやるなら,向こう見ずかある意味天晴れではある.)

 

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とはいえ,我々狩猟者はとても弱い立場でありまして,法律で決まれば,それが理屈に合わないことでも従わざるを得ません.現在一部地域でのみ義務づけられている非鉛弾頭使用が,私の出猟地域でも義務づけられたとき,ライフルでの選択肢は銅弾が第一であろうと思います.市販品が買える限りは私もそれを選ぶでしょう.ただ鉛に比べると比重が軽いため,同じ弾頭重量を保持するためには弾頭の長さが大きくなります.するとライフルのツイストレートは現行の鉛弾ベースで決まった値よりも速くしないとまとまらなくなる傾向があります.ライフルの更改時にはそのあたりを考えておく必要があるかも知れません.(ライフル銃身の寿命は散弾銃に比べて桁違いに短い)

 

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さて次に銅弾の輸入が止まってしまった場合を考えます.国産弾頭が買えれば良いですが,なかなか難しいでしょう.というのも,コスト的には輸入品に敵わないので,輸入が滞りないときは買う人が少なく,製造しても商売になりません.ところが今もそうですが,例えば有事の際に輸入が滞ったといっても,急には応需不能です.となると,結局,自分で鋳造することも検討せざるを得ません.

 

自家鋳造で問題になるのは融点です.弾頭鋳造に使用する炉は鉛(融点327℃)を念頭に置いているので,当然銅(1085℃)は溶かせません.入手が容易で融解可能な融点を持つ鉛以外の金属は,スズ(Sn 232℃)か亜鉛(Zn 420℃)くらいでしょう.

 

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イオン化傾向は Zn > Fe > Sn なので,亜鉛の方が鉄で出来ている銃身には優しいです.これは簡単に言うと錆びやすさを示していて,亜鉛と鉄が共にある場合は,亜鉛の方が先に錆びて鉄を守るということです.やや融点が高いのが気になりますが,それさえクリアできれば使えるかも知れませんね.

 

ただ紙撃ちならばそれだけでOKでも,狩猟に使う場合は,獲物に当たった後の振る舞いを考えなければなりません.これは終末弾道学に属する分野ですけども,現時点では参考になる文献が見つかっていません.そこで単純に考えれば,求められるのは展性です.これに富む物質の方が弾頭には適しています.すると残念ながら亜鉛は常温での展性に乏しいのです.要するに当たったときに砕けてしまうと考えられるわけです.結局半矢率も上がるのではないでしょうか.

 

この点ではスズの方が優れています.鉄バレルに優しくないのが欠点ですが,融点も十分低いし,展性にも富んでいますので,非鉛弾頭としては適していそうです.それに鉄よりイオン化傾向が小さいとはいっても,鉛や銅よりは大きいので,現行よりも優しくなるわけで....じゃあスズで決まりじゃないかと.笑

 

ちなみに比重は以下のようになっています.

  • 亜鉛 7.2
  • スズ 7.4
  • 銅 8.9
  • 鉛 11.4

というわけで,狩猟用の非鉛弾としては第一が銅,次点がスズって感じですね.そして鋳造するならスズと.これに近い合金としては,世の中には鉛フリーハンダが各種あるので,その組成や物性が参考になるかも知れません.例えばスズと銅,亜鉛ビスマスなどとの合金があります.なおスズを含め,これらの合金でもだいぶ弾頭が長くなるので,ツイストの速いバレルが求められる時代がやってきそう,というのが,私の想像です.