週末猟師

休日に射撃や狩猟を楽しむ

最後の鉄砲鍛冶

久々の図書館シリーズです.以前ヘッポコ猟師さんにお勧めされていた本をようやく読みました.
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最後の鉄砲鍛冶 櫻木俊明 著
明治生まれの鉄砲鍛冶であった著者がリタイアするまでの人生を綴った本です.この本がでたのが今から40年以上前なので,今読むと何それ?的なところが多くあります.鉄砲鍛冶を辞めた理由はいろいろあったかとは思いますが,お得意さんが大したことのない量産品に毛が生えたようなものを自慢してきて,見る目のない者に自分が作るものと比べられるのが我慢ならなかったというのがきっかけだったとあります.苦笑 2番径1発で鴨87羽を落とした話とか,現代ではあり得ないことがたくさん載っています.銃工に関しては基本的には自慢しいな感じを受けなくもないですが,銃に対するこだわりはきわめて強く,文章表現能力のない名工が多かった時代に珍しく,著者は文芸にも興味があったことも影響しているのか,明治の人とは思えないくらい表現も平易で現代人でも分かりやすいかと思います. 面白いなと思ったエピソードはいくつもあります.例えば,刀工の手伝いもしたことがあったそうで,いい刀というのは傷口を開かせない刀身の刃の付け方をしているとか.他にも現在につながっていそうなところでは浜田銃砲(東京・外神田)も名前が挙がっていたり,横浜の今井さんって,今もやってらっしゃるあの今井さんの親御さんだったりするのかな?とか.あと当時はカービンとライフルは違うもので,カービンにはライフルが切られていなかったらしいです.ただ定義としてはカービンは短いライフルだと思うので,実際に筆者が扱ったものがそうであったということなのだとは思いますが.そんなのがあったのですねぇ. よく分からなかったのは,著者がライフルを作るようになったのはその破壊力に魅せられたからとあるのですが,当時でもあった軍用銃を使わなかった理由が,軍用銃は貫通力を考えて作ってあり,猟銃は破壊力を考えて作るから違うのだという下りですね.貫通力は弾頭形状と弾速が一緒なら,弾頭の構造で決まってくるのであって,銃の方で変わる理由はありません.これはおかしいなと思いました. あとこの本の中では 3006 と 30-06 は別のものとして扱われています.後者は多分 .30-06 Springfield なのでしょうが,前者は何なんでしょう?昔はそういうのがあったのですかね? ちなみに黒色火薬は燃焼速度が遅いとありますが,それは間違いだと思います.黒色火薬専用の銃に同じだけ無煙火薬を入れたら事故になるので,無煙火薬の方が速いと考えたのだと思いますが,燃焼速度と腔圧は比例するわけではないのを見落としているかなと思いました. 筆者は銃自体のことや,その作り方についてはとても詳しく,今では匹敵する職人さんはいないと思われます.が,その他周辺のこと,例えば弾頭や火薬,狩猟に関しては,その当時まだ知られていなかったなどといった時代背景があるかも知れません.常識などもだいぶ今とは異なり,そりゃダメでしょ的なことはたくさんあります.その辺のことは割り引いても,面白い話がいっぱいでした.(ただ筆者は子供時代家族に恵まれなかったり,戦争で何回も応召したりと,相当苦労したようなので,同じ人生を歩みたいとは思いませんけど.苦笑) 今の流通価格では買う価値があるかは分かりませんが,少なくともこんな時代があったということに興味がある人には読む価値があると思うので,図書館などで見かけたら読んでみると面白いと思います.ヘッポコ猟師さん,楽しい本のご紹介ありがとうございました.