週末猟師

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温度勾配をもつ銃身による着弾点移動の定量評価(5):追補

前稿で銃身上下に 8.8 ℃の温度差があると,百m先で着弾点が 15cm 上がるという計算結果を述べました.↓

weekendhunter.hatenablog.com

 

ただこの導出過程ではいくつかの仮定や近似をしており,気になった方もおられると思います.

 

自分でも計算しながら気になっていた点の一つは,最初に筒先変位を考えるときの銃身を直線と仮定していたことです.しかしそのあとその変位を生み出すときには熱膨張で長手方向に伸びることによって,銃身が円弧状になることから変位を計算していました.実際円弧状に曲がった方が実際に近いし,そのとき筒先は直線近似より上を向くので,影響を小さく見積もることとなり,温度勾配が着弾点移動に大きな差をもたらすことを説明する意味では支障がないことと,そもそも少ない変位で大きな着弾誤差を生み出すことを示したいという最初のきっかけをシンプルに提示できたからです.

 

では円弧状銃身は,直線に比べてどの程度上向きになるのか,ということをここでは計算してみましょう.図示しますとこんな感じになります.

 


赤が直線近似で実線部が銃身,破線部が弾道を表しています.このとき 100 m 先で 15 cm 上に着弾するのに必要な筒先変位 h が 0.84 mm だったわけですね.一方銃身上部が下部に対して 8.8 ℃の温度勾配をもつとき,筒先は 0.84 mm 上方に変位します.銃身が均質ならば円弧状に変形しますので,そのときを青で示しています.変位が同じでも円弧近似のほうが仰角が大きいことが分かります.

 

早速それぞれの仰角を求めます.まずは簡単な直線(赤)のほうから.

 

仰角 α = sin-1(0.84 / 560) = 0.0015 rad

 

次いで円弧(青)です.銃身下面の伸びで円弧上に曲がる時の,曲率中心から見た投影角度は 0.003 rad であり,これは仰角に等しいです.(導出過程は以前述べているので省略)

 

結局銃口の打ち上げ角は直線で仮定したものの倍になるので,着弾点移動は最初に仮定した 15cm ではなく,30cm 上になります.すると実射時で得られた 15cm 上がる現象は,もし銃身が完全な剛体であれば,実際の温度勾配が半分程度でも発生しうると言うことになりますね.

 

というわけで仮定によって数字は変わりますが,「銃身に軸対称ではない温度勾配が存在することは命中精度に大きな影響を与える」という結論には変わりないかと思います.対策としては温度分布を計測することで零点規正補正を行うこともアリとはいうものの,実際は温度勾配を持たせないような構造にするのがよさそうです.