【事前説明】
弾頭が薬莢から外れないように噛み込ませて固定することをクリンプといいます.標的射撃においては一発づつしか装填しないので必要はないのですけど,狩猟の場合はマガジンに弾を入れておくことになります.最初の弾を発砲すると,その衝撃でマガジン内の弾から弾頭が外れたりずれたりすることがあるのです.これを避けるために一般的な弾にはクリンプがかけられており,ハンドロード(自作弾)の場合にこれに使う道具をクリンパといいます.
【本文】
春便で購入したクリンパを使ってみました.
もともとは Lee のクリンパを使っていました.
これはコレット式でこのような感じにネック部分が線状に圧迫されてクリンプが掛かるものです.ですからキャナルア(cannelure=クリンプ溝)の有無に関係なく使用できます.ところがどうも弾頭の把持力に疑念がありました.うちにある個体だけかも知れませんけども,これは調整が出来ないものなので,どうしようもないのです.
で,春便で買い足したのが Redding のテーパークリンプダイでした.
これだと抑える部分が線状ではなく帯状になるので,コレットに比べて強い力で把持することができると考えられます.反面,セットする深さの調整がシビアで,浅ければ把持力が弱く,深ければ薬莢自体が座屈してしまう恐れがあります.なので,どっちがいいかというのではなくて,適した方を選べば良いわけです.
なお Lee のコレット式でクリンプをかけると,こんな感じになります.
対して Redding のテーパー式だとこんな感じです.
分かりにくいかも知れませんが,薬莢のネック(弾頭の把持部分)が擦過されるので,少し光っています.
さて,今回は以下の条件で試射しました.
27.2℃, 1003hPa, range 100m
.308Win
barrel length: 22"
twist rate: 1:10"
chronograph: Magnetospeed v3
case: Lapua 308win, full length sized
bullet: Sierra 150gr Spitzer Point
primer: Winchester Large Rifle
powder: IMR4895 46.0gr
dispenser: Lyman Gen6
5-shot average velocity
測定結果
クリンプ無し:平均弾速 2741fps 標準偏差 18.7fps
コレットクリンプ:平均弾速 2745fps 標準偏差 11.5fps
テーパークリンプ:平均弾速 2765fps 標準偏差 14.2fps
昔試射したときは,薬量測定に注意を払っていなかった(Lee dipper 使用)所為では?と疑っていますが,クリンプしてもあまり差はないという結果になりました.しかし今回諸条件を揃えて実験した結果からは,クリンプをした方が弾速が上がって,速度のバラツキも少ない傾向にあるということが分かりました.またテーパー式の方がコレット式に比べて弾速が速いという結果になりました.弾頭把持力が上がったために,激発時の弾頭前進に伴う燃焼領域の拡大が遅くなり,等価的に burn rate が上がったのと同じ効果がでて,腔圧が高くなったのではないかと推測しています.
今はまだテーパークリンパの調整が煮詰められていませんが,上手く使えば弾速の安定にも寄与することが予想されるので,グルーピングの向上にも資する可能性はありますね.まあ私にはあまり関係ない(ミリ単位で的中精度をあげようということに興味がない)のと,クリンプの分,多少ながらネック部分の金属疲労を加速させる可能性もあるので,猟用以外はかけない方向で.笑