いつもの図書館シリーズです.
定価は2500円の本ですが,今買うととんでもない値段になっていますね.
著書の説明に「時効硬化」とあったので,鉛合金で弾頭を鋳造する際の知見が得られないかと思い,借りてみました.
時効硬化というのは,金属を高い温度から急冷した後で放置すると硬くなる現象です.結論から言いますと,この本はアルミニウム合金の時効硬化研究の歴史をまとめたものでした.アルミニウム合金というのはジュラルミンのことです.もともとジュラルミンの開発過程で時効硬化という現象が発見されたそうで,その辺の由来なども書かれています.
ただ我々のような弾職人にはジュラルミンは縁がないですからね.銃本体に使えるかも知れないけど,銃器製造するわけじゃないからなぁ.ちなみにマグネシウムの含有量で結構性質が異なるということが書かれていました.
私たちに関係ありそうなトピックでは「加工硬化」がありました.これは金属を常温で塑性変形すると硬くなる という現象です.ただし鉛は加工硬化しません.加工硬化のメカニズムは,金属が変形すると結晶構造の欠陥部位である転位が増えていき,それが絡んだ糸のようにもつれ合い,結晶構造の滑りが悪くなるからだそうです.
焼き鈍しは温度の影響でこのもつれがほどけて戻る現象で,再結晶(転位の少ない結晶が粒が生まれる)が起きているそうです.鉛が加工硬化しないのは,再結晶温度が低いからとのこと(-3℃以下.他の金属は200℃くらい).加工しているそばから再結晶が起こってしまうからなのですね.ただかなり低温であれば,やはり加工硬化することになりますから,極寒では終末弾道にも影響があるかも知れません.
この本の話の中で笑ったのは「狸の金玉八畳敷き」を計算で確かめたところです.筆者は生前,教授をしておられたそうで,講義もきっと面白かったのだろうなぁと思いました.