週末猟師

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散弾リロードにおける薬莢判別の重要性

うちの散弾リロードでは,クレー射撃で自分が使った WAA/HS の撃ち殻を主に使っていますが,一つのレシピに固執していると,いつだったか起きた WAA compression-formed ディスコンのような事態があったとき困ってしまいます.もちろん分かっていたので ASKA を使ったこともあるのですが,こちらは事業ごとなくなってしまいました.苦笑

さて散弾のレシピは薬莢(hull),雷管(primer),火薬(powder),ワッズ(wad),散弾量(shot weight),クリンプ(roll/fold)の組み合わせで決まります.ライフルのリロードでも例えば薬莢の違いによる差は若干あります.というのも厚みが異なると,薬莢の容量が若干変わるためです.しかし,published load をそのまま使っても気になるような差は普通出てきません.しかし,散弾の場合は結構変わってくるのです.

そこでまず重要なのは薬莢の判別です.特に影響が大きいのはベースワッドの構造の差です.この部分が薬莢側面と別の部品になっているものを polyformed (または Reifenhauser type)といいまして,薬莢を覗くと底にプラスチックのベースワッド(普通は白い部品)がはまっているのがみえるのでわかると思います.もう一つのタイプは compression formed といって,ベースワッドまでが一体形成になっているものです.このタイプは丈夫で寿命が長い(使える回数が多い)ことが利点ですが,他の条件を同じにすると薬量が少なくて済むという点も重要です.リロード用として人気があった Winchester AA がそうでしたが,現在の WAA は WAA/HS という polyformed のタイプに変わってしまいました.このように同じブランドだったり,外見は同じに見えても,中身(ベースワッド)が変わる事があり,そうするとレシピが変わってくるので,薬莢の判別はとても重要なステップと言えます.(逆に外から一目で分かるブラスの高さなどが違っても,内部構造が同じだとレシピは変わりません.)

具体的にどのくらい違うのか気になる人も多いと思いますので,Lyman 4th に載っている中で一例を示しましょう.まず polyformed の例として Fiocchi Plastic Cases を見てみましょう.1oz lead shot のレシピでワッズが P.C. Purple,プライマが Fio.615,火薬が Clays のとき 21.5gr で 1257fps となっています.一方,Winchester compression formed で同じく 1oz load, プライマは Win209 になりますが,同じワッズと同じ火薬を使ったパターンで 19.0gr で 1262fps とあります.もちろんプライマも同じパターンがあるといいのですが,この辺は雷管は変わっても弾速は高々数十 fps 程度しか変わらないので,ワッズが同じで弾速もほとんど同じであることから,この薬量の差は薬莢構造に由来するものだということがわかります.

ではハンドロード時に薬莢判別を怠り(もしくは誤り),compression formed case に polyformed のレシピを適用してしまったとしましょう.詳細は別の機会に書くつもりですが,薬量と圧力は単純に比例するわけではありません.これには pressure factor という通常使用域での薬量変化と弾速,腔圧の関係を表す指数を使って推定します.例えば Clays の pressure factor は平均 2.23% というデータがあるので,上の差(21.5gr/19.0gr = +13%)においては,3割ほど腔圧があがる計算になります.SAAMI 規格によると 12GA の 2-3/4" シェルは最大平均圧力が 11,500PSI です.先ほどの compression formed のレシピの圧力は 10,300PSI でしたから,ここから3割も腔圧が上がってしまうと定格を超えてしまいます.

それに実は怖い事に pressure factor は薬種で異なり,中には 13.1% なんていう例もあるのです.そうなると腔圧は最大で3割どころか5倍近くまで上がってしまいます.まあこれは極端な例ですが,わずかな差に見えても proof load すら軽く超えることもあり得るわけで,薬莢判別を誤る事は非常に危険なことにつながる可能性がある...ということはガッテンしていただけましたでしょうか(志の輔風でお願いします)? ガッテン,ガッテン

お後がよろしいようで.