週末猟師

休日に射撃や狩猟を楽しむ

デルス・ウザーラ

以前エントリした「狩猟サバイバル」の著者である服部文祥氏が心酔するというデルス・ウザーラを借りてきました.帝政ロシア末期に未開の地であった極東沿岸部(北海道の西の対岸あたり)の調査を命じられたアルセーニエフが,現地人であるデルス・ウザーラの案内で冒険したときの百年ほど前の記録が元になっています.長い冒険記のうちの一部がデルス・ウザーラ(日本語表記には揺らぎがあります)と題されています.彼は自然を読み取る力に優れており,もちろん優れた狩猟者でもありました.まさに大自然の一部であった彼に関するエピソード群です. 図書館にはいくつか在庫がありましたが,とりあえず二冊借りました.まずは絵本.笑
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絵はパヴリーシンというハバロフスクの人の作品で,極端なデフォルメもなく丁寧に描かれています.たださすがに絵本ですから元々のストーリーのうちのあらすじのさらにあらすじという感じで単純化しすぎていて,肝心なことはあまり伝わってこない気がします.おまけにお話の結末があっさりわかってしまったので,本編の予習とするには残酷.苦笑 ついでこれの元になった小説です.いくつかバージョンがあるようですが,私が借りてきたのは中でも新しい安岡治子訳版です.
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基本的には小説というより冒険記なので,現地名がたくさん出てきますが,正直どこのことだかわからないので,勝手に想像して読んでいました.移動途中は放棄されたユルタ(小屋)があったりすると,そこに泊まったりするエピソードが多いのですが,この辺は服部文祥氏が山岳狩猟旅行中に勝手にその辺の小屋に泊まってしまうというような話とリンクしていますね. デルスは老練な狩人でしたが,老いから目が悪くなっており,狩猟でへまをやらかしてガックリきてしまう話とか悲しいですね.最後はアルセーニエフが面倒を見ようとハバロフスクに連れて行きますが,木を切って薪にしたり,獲物を撃って食べるというような彼にとって自然な営みであったことが,都市では禁止されていて悲しい結末を迎えます. ただ彼は文明を否定しているわけでなく,ある種の憧憬も持っているようです.アルセーエニフは筆記具などの一部を鞄に入れて,デルスに持たせていました.あるときその中のインクをデルスはなくしてしまい狼狽します.彼の語彙にはインクという言葉がなかったので,それを「汚い水」と呼んでいました.彼はその汚い水を大切にしていました.というのも,彼によれば,言葉には人間の口から出ると空気を伝って近辺に広がるものと,瓶詰めにして栓をされるもの(インクのこと)があるそうで,後者の言葉は紙の上に乗って遠くまで運ばれます.前者はすぐに消えてしまいますが,後者は百年もそれ以上も残り得ます.この素晴らしい「汚れた水」を自分などが持つべきではなかった,というのも自分はこれをどう扱ったらいいか知らなかったからだ,と言ったそうです.印象深いエピソードでした. 彼は自然のあらゆるものを人間と対等であると考えていました.アイヌは自然のあらゆるものにはカムイ(神)がいると考えていましたが,それはカムイが絶対的支配層というわけではなく,カムイが欲するものをお供えする代わりに,カムイは人間に糧をもたらすという考えかたですから,ある意味対等といえるでしょう.ですから,彼の世界観はアイヌにも通じるところがあると思いました.絵本ではいまいちこのような重要なポイントがわからなかったので,大人には文書版をお勧めします.笑 そうそう,有名なところでは黒澤明監督によって映画化されていたりとかするようですから,これも見てみたいと思いますね.まあ時間の制限からエピソードは相当端折られるのでしょうけども.