週末猟師

休日に射撃や狩猟を楽しむ

狩猟は畜産のお株を奪えるか?

近年 SDGs が人口に膾炙しており,その中の一つ,気候変動問題に温暖化対策があります.温室効果ガスの放出は,化石燃料の消費に伴うものが当然大.しかしそれ以外にも牛のげっぷに含まれるメタンガスの影響も大きいと言われています.また世界には飢餓に苦しむ地域がある一方で,家畜を飼養することで穀物などの資源を大量に消費しているという問題もあります.日本で野牛は狩猟鳥獣ではないので,豚について考えてみましょう.最初に大風呂敷を広げて見せましたけど,このブログはそんな大層な話題は扱いません.笑

 

さてみなさんご存じの通り,豚と猪は元来同じ種類の動物です.猪を家畜化したものが豚ですからね.猪は当然,豚も雑食性でいろんなものを食べるので,例えば残飯やら農作物の不可食部位の有効活用なども考えられるものの,畜産において大量に安定供給が必要である飼料に,そのようなものは主だっては使えません.当然本来であれば人間も食べられるようなものも飼料に使われているでしょう.ところが野生動物は原則として山にある,その動物が食べなければそのまま土に還るべきものを食べているので,環境負荷は考えなくてよいです.ですから人間から見れば,家畜より野生動物を食べるほうが環境にはよいはずです.だったら豚の代わりに猪を食べればいいじゃない?と,マリー・アントワネット(の噂)のようなことが言えるか?というお話.

 

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環境省の資料によれば,日本の猪の4年前時点の推定個体数は 88 万頭だそうです.そしてなんと1年の捕獲数は 60 万頭らしい.実際このうちの多くは駆除での捕獲です.しかしこれだけ獲っても絶滅にはほど遠いのだからすさまじい繁殖力ですよね.それを支えている一つは農作物被害なのでしょう.被害がなければ,駆除もないですからね.

 

一方,豚の屠畜数は年間 160 万ほどです.仮に獲ったイノシシを全量流通できたとしても,豚の代替になるだけの数は獲れないし,そもそもの母数もそこまでありません.それに豚の枝肉は平均 77 kgくらいあるそうで,体の小さな猪(加えて狩猟圧が高いので若い個体が多いはず)からはそんなにとれないですから,猪で豚の代替がつとまる可能性はありません.

 

というわけで結論.「猪は豚の代わりにはならない」です.まあ最初から分かってはいましたけど,具体的な数字で検討してみました.ただお株を奪うほどでなくても,自分が最初に予想していたほどの桁違いさではなかったですね.流通割合を高めれば,ブランド豚をたまに食べるくらいのイメージで,一般家庭でも猪を食べられるかも知れません.それには駆除で獲ったものの流通をめざすことになるのでしょうけど,駆除って獲った数でお金が出るからやってるだけで,猟果はそのまま埋めてるって話も聞きます.というのも,美味しいのは猟期(=冬)であって,それ以外の時期に駆除してもあまり美味しくなかったり,獲ることが優先だから撃ちどころ(可食部を多く残すような打撃箇所と,引き出し容易な地理的な場所という両方の意味)も気にしないし,食べることは考慮してないパターンもあるわけです.食べるとしても身内だけでしょうね.

 

ではそれを食肉流通に回してもらうにはどうするか,それは買い取りを高くするしかないですよね.でも豚でさえ1頭3万円くらいらしいです.猪は単価を高く出来ても,そもそも豚みたいに大きくないし,歩留まりも悪くなるから,大きくて程度のよいものでも1万とかそのくらいでしか買えないのではないでしょうか.まあ流通に乗せるということはいろんなコストが乗っかってくるので,買い取りはこんなもんかな?と勝手に想像してるだけなので,実際はどうか分かりませんが,いずれにしても,その程度のお金で,手早く山から引き出して処理場に持ち込んで...とか考えたら全然割に合わないですよ.だったらその手間で別のを撃った方が確実に稼げると,駆除をやる人は思うでしょうね.

 

まとめまして,これから狩猟をはじめて,猪でもとって生活したいなと思っている方に私見です.特に,金銭面では有害駆除の補助金目当てでやろうとしているのであれば,気にしておかないといけないことですが,猪の生息数は段々減ってきていて,国の計画では令和5年に50万頭まで絞るということになっています.鹿も数こそ違えど,同様の政策です.それまでは捕獲強化を継続するものの,以降は継続するとは言ってないので,補助金は今みたいには期待できないと思います.加えて猪に関しては,豚コレラ(豚熱)が流行していて,地域によっては生息数が激減していたり,獲れても感染地域の猪は域外への移動が禁止されていますし,当然販売などもってのほか.このように補助金目当てでの生活は先がないし,狩猟でジビエ販売といっても,流通に必要な食肉処理施設にはコストが掛かる上に,このような疫病の影響で販売できなかったり,そもそもの生息数が当初の管理計画より早く減っているとも考えられ,先行きには暗い材料しか見えてきません.今後は狩猟はあくまでも趣味で,生活に彩りをもたらすために行うにとどめ,収入源として考えるのはやめた方が良いだろう,というのが私の意見です.もちろん最初からゼロベースで考えているなら,なんの問題もありませんけども.(ただしそれを他人は趣味と言います.笑)